医療法人 慈照会グループ

採用情報LINE 友だち追加
採用情報用LINE
慈照会SNS
採用情報

ホーム > 腎臓内科診療日記 > 腎臓内科医の診療日記 No.66

腎臓内科医の診療日記 No.66

北海道の原野を切り開いて造られた道には街灯が1本もなく、自分の周囲はほとんど漆黒の闇だった。道の両側には原生林の木々が鬱蒼と生い茂っていて、頭上の空は曇っているのか星は見えない。歩き始めてすぐの頃に背後から車が1台近づいてきたが、真っ暗がりの中を大きなスーツケースを転がして歩く私を、軽く無視して追い越して行ったあとは、車もまったく通らない。スマホの小さな灯りを頼りに、暗く静まり返った北海道の大自然の中を、たった独り、クマよけの鈴をチリンチリン鳴らしながら歩き続ける。試しに立ち止まってライトを消してみると、一瞬で暗闇と静寂に包まれて大自然と自分が一体化する。

道東の原野は野生のヒグマの生息地帯なので、暗闇のどこにヒグマが潜んでいるかわからない。OSO18も、すぐそこに居るかもしれない。クマ対策スプレーは家に置いてきた。7人の村人が犠牲となった三毛別羆(さんけべつヒグマ)事件のヒグマが立ち上がると、通常の家の天井の高さを超えていたそうで、OSO18もそれと同じサイズだそうだ。走って逃げようとしても、ヒグマは時速60kmで追いかけてくるそうで、ウサインボルトが走るスピードは時速44kmである。プーさんと違って友達になるのは無理だろう。というか、いきなり押し倒されて、喉元を噛みちぎられ、ムシャムシャ喰われて自分がクマと一体化するんだろう。先ほど列車を降りた川湯温泉駅から30分くらい早足で歩き続けたものの、恐怖の限界に達して半分チビっていた私は、ようやく背後から近づいてきた眩いばかりの明かりに向かって、これでもかと言わんばかりに大きく手を振った。

先日、OSO18が釧路町で駆除されていたというニュースが流れた。「されていた」というのは、ニュースが流れたのは8月下旬なのだが、実際に駆除されたのは7月30日の早朝だったためで、駆除された大きなクマをOSO18かもしれないと疑ってDNA鑑定をしたところ、そう判明したのだそうだ。7月30日といえば私の旅行の最終日で、初日に泊まったライダーハウスにバイクを返却して、行きに乗った釧網本線で釧路まで戻ってきた日である。なんだ、もうちょっとで念願のOSO18と出会えたところだったじゃないか。ウィリーウィリアムス以来の熊殺しとして、私がネットニュースで話題になるはずだったが、残念だった。いっそのこと職場で看護師さんに、「実は俺が北海道でOSO18と素手で闘って倒してきたんだ」とホラでも吹いてやろうか。ひょっとすると噂が広がって、私の事をスゴイ、カッコイイと思ってくれるかもしれない。駆除されたOSO18は解体されて真空パックに詰められ、ジビエ肉として東京の料理店やネット販売業者に売られ、肉がOSO18のものだと分かったとたん、あっという間に完売したそうである。