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腎臓内科医の診療日記㊳

感染症の予防のため、会社に出勤せず自宅で長時間仕事を行うリモートワークが広がって、夫婦喧嘩が増えているそうだ。リモートワークとは直接関係ないが、以前ラジオ番組に出演していたシニアライフのアドバイザーだったかが、定年退職予定の既婚男性に、「会社を辞めると避難場所がなくなりますので、注意して下さい」とアドバイスしているらしい。定年前に仕事を辞めてしまった男性が、それまでと同じ出勤時間に家を出て、公園のブランコで1日過ごして、夕方自宅に戻るという、大変悲しい話を聞いたことがある。結婚している男性は、とりあえず自宅から離れた職場に通勤して、自宅の滞在時間を短くした方が、何かと都合が良い。リモートワークは感染の機会を減らすかもしれないが、別のもっと厄介なトラブルを誘発しているのかもしれない。

医療現場で電子カルテが普及して、入院患者の血圧や体温、検査結果、カルテ記録などを、病院のどこのパソコンからも確認できるようになった。電子カルテの作業は、ちょっとしたリモートワークである。そんなわけで、患者の病室から離れた場所で、患者の主治医である若い医者が、先輩の医者に困っている事を相談すると、電子カルテをみながら、あーでもない、こーでもない、と話が始まる。もっと多くの医者が集まるカンファレンスでは、電子カルテの画面をプロジェクターで壁のスクリーンに投影して、普段その患者を診ていない医者の間で、あーでもない、こーでもないと議論が始まって、しまいには情報処理能力が怪しくなった私のような年配の医者がエラソーに発言して、話が終わることもある。カンファレンスは一般的知識の確認や、単純ミスを発見する良い機会にはなるが、その患者特有の問題を解決しようと思うと、そうはいかない。文字化、数値化された情報は、生身の患者に比べて圧倒的に情報が劣化していて、情報量自体も少ないため、ハッキリ言ってしまえば評価に値しなかったり、誤った方向に議論を誘導する事も多い。患者から離れたところでは話は始まらないし、それなりの医者が直接診察することによって、問題が一瞬で解決することだってある。そういうコトだと思う。20年前、青島刑事は「事件は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きてるんだ!」と叫んだ…らしい。私はテレビドラマをあまり見ていなくて、話に着いていけないコトも多かった。

私が研修医の頃は、電子カルテが普及する前の紙カルテの時代だったので、字のキタナイ医者のカルテは、何が書いてあるか判らなかった。私は気になっている看護師さんに「このセンセーの字、キタなくて読めないよねー」と話しかけた。検査結果の紙は、看護師さんがカルテの後ろに糊付けしてくれていたので、気になる看護師さんの糊付け作業を手伝ったりした。患者のカルテは1冊しかないので、看護師さんとカルテの貸し借りをする時など、目と目が合ったり手が触れ合ったりした。患者の入院が長期化すると、カルテは電話帳のように分厚くなっていき、大量のレントゲン写真が入った紙の袋は、はち切れそうになった。そういうカルテやレントゲンを、カンファレンスの準備で研修医が何冊も抱えて運ぶとき、カルテのバインダーの留め金が開いたり袋が破れて、紙やフィルムが床に散乱した。やさしい看護師さんが、拾うのを手伝ってくれた。そういうコトだった。