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腎臓内科医の診療日記㉘

娘が、やっぱり沖縄へ行かないと言い出した。元々、3月に冬休み旅行で海外に行こうとしていたのだが、例の騒ぎで旅行をキャンセルして、家族は自宅に巣ごもりとなり、私はロックダウンされて病院の隣で数か月過ごした。それまで日課のように通っていたプールも閉鎖され、もともと脂肪のつきにくい体質なので、運動不足で太るというより、純粋に筋肉が衰えて体重が3kg減った。ちなみに今の体脂肪率は9.5%で、若い頃は5%だった。ボクサーの体脂肪率も5%らしいが、私はただ単にヒンソーだったのが、ようやくフツーに近くなってきていた所だった。6月になって、ようやく市営プールが再開され、少しずつ自粛ムードも下火になってきたので、7月に北海道でも行こうかと娘に話したら、北海道は修学旅行でいくから沖縄がいいとか言いやがったので、沖縄行きの飛行機チケットを手配した。沖縄に何度もダイビングや観光に行ったことのある同僚の先生が、今までで泊まったホテルの中で1番良かったというホテルのオーシャンビューの部屋を、奮発して予約した。ちょっとは感謝しろよ、とか、将来俺のシモの世話を頼むぞ、なんて全然思ってないぜ…

全国で感染者数が増えてきた、というニュースが連日流れ、数日前には山中教授が、「対策をしなければ今からでも10万人以上の死者が出る可能性がある」と指摘した。何人かの知事を含め、GoToキャンペーンなどやっている場合ではない、という意見が目立ってきて、ついに東京を対象外とする方針が発表された。一方で、上記の教授の発言に対して、根拠が何も提示されておらず、政府の対策に大きく影響を与える「有識者会議」のメンバーとしての適格性を疑問視する記事がネットに流れた。全国の病院では感染者数増加のニュースなどを受け、緩和ムードに傾いていた雰囲気を再度引き締める方向にすすみ、一方で、医師の中でも日本の対策に疑問を持つ何人かの医師が、SNSなどのネット上で持論を展開して応戦している。そういった医師は、比較的組織のしがらみが少ないと思われる立場の医師である。「過剰な恐怖や不安が、人間を誤った行動へ導いている」のか、「日本において、過度の自粛は必要ない、と油断するのはもってのほか」なのか、お互いに主張を譲らない。今のところ優勢なのは、後者である。私は組織のしがらみが、それなりにある立場の医師である。

購入した飛行機のチケットは、一度だけ無料で日時を変更することが出来る。それを娘に伝えたら、怖いから日付が変わっても行かない、と頑なに主張しはじめた。キャンセル料を確認すると100%だった。いっその事、航空会社が欠航を決めて、キャンセル料払わずに済まねーかな、と3月と同じことを考える羽目になった。じゃ、旅行の予定なんか立てなければ良かったんじゃないの、とか後悔しているかと言うと、別にそういう訳でもない。ゼロリスクで生きようとすると、何もしないまま年を取って人生は終わってしまう。少々の負傷は覚悟の上である。先日、地下鉄に20代くらいの若者が、歴史的名マンガ「北斗の拳」の人気登場人物、ラオウが描かれたTシャツを着て乗ってきた。ラオウの横に、名ゼリフ「我が生涯に一片の悔いなし」の文字が、縦書きで力強く書かれている。私もジジイになって杖をつくようになったら、このラオウTシャツを着て、地下鉄に乗ってみようと思った。