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腎臓内科医の診療日記⑲

スウェーデンの16歳の環境活動家が国連の環境サミットで物凄い形相で怒っていた。発言が間違っているとか、そういう事ではないが、ちょっと違和感というか恐怖感というか、なんだか自爆テロでも起こしそうな勢いだなと思った。世界中で彼女の発言に共感した人々が、環境問題についてデモ行進を行っているそうで、その映像もあちこちで流れていた。トランプ大統領は朗らかな女の子と皮肉ってツィートし、プーチン大統領は、彼女は世界が複雑な事を知るべきだとコメントした。

数日前、香港のデモで18歳の高校生が、警官に拳銃で撃たれて道端に倒れこむ映像が流れた。高校生が警官に向かって棒で襲いかかる場面から映像が始まっていた。警官は身の危険を感じて、自分や仲間の生命を守るために発砲した、と説明した。そりゃそうだろうと思った。もちろん、撃たれた高校生の事は気の毒に思うし、手術で一命をとりとめたのは良かったと思うが、撃った警官が一方的に悪いとは思えない。

私が若いころによく聴いたロックンロール音楽は、行き場のない怒りや溢れるような情熱をエネルギーとした若者の音楽で、既成の価値観や社会通念を、フザケンジャネーバカヤローと元気よく破壊していくところに、当時の多くの若者が共感し、熱狂した。あれから時も経って、ヒーローだったミックジャガーはもう76歳だし、デビッドボウイやプリンスやマイケルジャクソンは死んでしまった。あの頃に活躍したロックグループは、往年のファンが中高年になってお金を持っているものだから、高額なコンサート料金の再結成ツアーをバンバンやっている。仲違いして解散したはずのバンドも、何故か再結成してニコニコ日本までやってきている。フザケンジャネーと言いながら、何となくチケットを購入して足を運ぶと、会場を埋め尽くすのは、私と同年代か年上のGGIとBBAばかりである。GGIはジジイのことでBBAはババアのことである。どうだ、ロックだろう。

怒りは、価値観の異なる相手の行動を変えるのに、どのくらい有効なのだろうか。クレーム処理の現場で必要なスキルは、相手が怒っている理由を理解できなくても、怒らせた事に対してとりあえず謝っておく事だそうである。その場合、とりあえず謝っている人の価値観は何も変わっていないので、怒りを避けるために一時的に行動が変わったとしても、またすぐに元に戻る。地雷原の豊富な怒りっぽい人に対しては、予測不能でキリがないのでひとまず離れておこう、と考える人も多い。あるいは怒られた側に、怒り返す元気があればケンカになるし、規模が大きくなれば戦争である。じゃあ話し合えば、相手が価値観を変えてくれるかというと、口の達者な人が議論に勝つだけで、言い負かされた人はその場は黙るしかないが、心の中では納得がいかず、考え方はまったく変わらない。多様な価値観は究極的には相対的なものなので、仕方がない。好き嫌い、単なる思い込みである。人の考えを自分の都合のよいように変えていくには、直球勝負ではうまくいかないようで、そのあたりに長けた人物が、社会の大きな流れをつくっている。怒ることには意味が無いのである。それどころか、人間関係を破壊するし、自分自身の体にとっても良くない事がわかってきている。アンガーマネジメント(怒りを感じた時に、自分の中で上手に処理していく方法)に関する本を、同期の女性医師の誕生日プレゼントとして送った男性医師がいた。言ってみれば、彼もロックンローラーである。