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ホーム > 天野記念クリニック > 糖尿病の基礎知識 > 糖尿病の薬物療法

糖尿病の薬物療法

糖尿病の薬物療法①

未治療の糖尿病患者で十分な食事、運動療法を2から3か月行っても、血糖コントロールの目標値が得られない場合、薬物療法の適応となります。現在、使用されている経口薬は作用機序から7系統に大別されます。どの薬を選択するかは、合併症抑制に効果があるか、病態に適しているかどうか、禁忌事項に当てはまらないかなどを考慮して選択します。患者の同意がないと処方できないので、処方する前に薬の説明をします。自分がどんな薬を処方されているか知っていることは大事なことです。

糖尿病の薬物療法②

血糖降下薬を開始する一応の目安はHbA1cが7.0%以上です。インスリン非依存状態(インスリン分泌が保たれている状態)の目安としては、随時血糖が300mg/dl未満、空腹時血糖が200mg/dl未満、HgbA1cが10%未満などを参考にします。しかしながら、速やかに血糖を下げたいときはインスリン注射を使用することもあります。一方、インスリン依存状態(インスリン 分泌が乏しい状態)、糖尿病合併妊娠、急性代謝失調時、重篤な感染症、全身管理が必要な外科手術などではインスリン注射を使用しなければなりません。

糖尿病の薬物療法③

どの薬物を選択するかは個々の患者の病態に応じて行います。わが国で使用可能な経口薬は作用機序のちがいなどから7系統に大別されます。インスリン分泌を促進するSU薬、グリニド系薬、DPP-4阻害薬、インスリン抵抗性改善薬であるBG薬、TZD薬、さらに、インスリン作用と関連しない機序を持つ薬剤として、糖質吸収遅延によって食後高血糖を改善させるα-GI薬、腎臓での糖質再吸収を抑制し、糖排出を促進させて血糖降下に働く選択的SGLT2阻害薬です。病態に適した作用機序、禁忌事項に当てはまらないことなどを考慮して選択肢、患者への説明と同意のもとに開始します。

糖尿病の薬物療法④

急激な血糖コントロールを伴う身体への悪影響や薬物による副作用を最小限に抑えるために、第一選択薬を単独で少量から開始し、血糖コントロールが不十分な場合には徐々に増量するか、あるいは作用機序が異なる他の経口薬の作用を考慮します。効果の判定は開始から3ヶ月後をめどにし、効果が不十分のまま放置しないようにします。糖尿病の病態は進行性で、病態が多岐にわたります。1種類の薬だけでコントロールを維持するのはしばしば困難です。作用機序の異なる経口薬の追加あるいはインスリン 注射の併用、またはインスリン注射への変更による血糖コントロールの改善をめざしていきましょう。

スルホニル尿素薬①

スルホニル尿素薬は経口血糖降下薬で最も古くから用いられている薬剤です。膵臓のβ細胞の細胞膜上のスルホニル尿素受容体に結合し、インスリン分泌を促すことにより血糖降下を発揮します。血糖降下薬の中で最も血糖降下作用が強い薬剤のひとつです。スルホニル尿素薬は一般に、インスリン分泌能が比較的たもたれているが、食事、運動療法によっても十分良好な血糖コントロールが得られない2型糖尿病患者がよい適応となります。
1型糖尿病を含めインスリン分泌機能が高度に低下した症例は適応となりません。また、高度の肥満などインスリン抵抗性の強い患者にも良い適応ではありません。

スルホニル尿素薬②

スルホニル尿素薬の副作用として最も重要なものは低血糖です。特に血糖効果作用が強いもの、作用時間の長いものほど発生頻度が高くなります。軽度の低血糖の発生頻度は服用者の数%、入院を要する重症低血糖の頻度は年間10000人あたり2人から4人との報告があります。また、他の薬と併用することで低血糖の頻度、強度を増加させる場合があるため、注意が必要です。高齢者では、肝、腎、心の機能が低下していることがあり、低血糖のリスクが高いため、少量からの投与開始が推奨されています。腎機能、肝機能の低下が進行した患者では低血糖の危険性がさらに拡大するため、スルホニル尿素薬の投与は禁忌です。

速攻型インスリン分泌薬①

速攻型インスリン分泌薬はSU薬と同様に膵β細胞のSU受容体に結合してインスリン分泌を促す薬です。速攻型インスリン分泌薬はSU薬に比べて作用発現時間が速く、作用持続時間は短く、力価としてはSU薬より弱いです。血糖降下作用は服用後30分以内に発現し、約60分で最大となります。そして約3時間で作用はほぼ消失します。速攻型インスリン分泌促進薬は食前に服用すると吸収が阻害され十分な効果が得られません。食前30分前の投与では低血糖の危険性が増すため、1日3回、毎食直前に服用します。1型糖尿病の症例は適となりません。胎児や乳児への安全性は保証されていないため、妊娠中、授乳中には通常は投与しません。副作用としては、SU薬と同様、低血糖でありますが、SU薬に比べ、その頻度は少ないです。肝、腎障害のある場合では低血糖が発生する危険が高まるため、慎重に投与します。

速攻型インスリン分泌薬②

速攻型分泌薬はその作用持続時間が短いことから、単独で治療を行う場合は、空腹時血糖が比較的保たれ、食後高血糖を呈する患者に良い適応となります。副作用として最も注意が必要なものは低血糖です。SU薬に比べて相対力価が低く、作用時間が短いため、その頻度は少ないです。肝臓や腎臓に障害のある患者では低血糖が発生するリスクが高まるため慎重に使用します。透析患者には慎重に使用します。

DPP-4阻害薬①

経口摂取した栄養素に応答し消化管から分泌され、血糖依存的にインスリン分泌を促進する消化管ホルモンはインクレチンと総称されています。今から100年以上前にその概念が提唱され、今日までにGIPとGLP-1が確認されています。膵臓にはGIPとGLP-1の受容体が存在し、GIPとGLP-1がそれぞれの受容体に結合、インスリン分泌を増幅させます。
GIPとGLP-1は分泌後DPP-4により急速に分解を受け生理的活性を失います。DPP-4阻害薬はDPP-4活性を阻害し、GIP、GLP-1の不活化を抑制することで血糖降下作用を発揮します。

DPP-4阻害薬②

この薬を単独で用いた場合、低血糖のリスクが低く、体重増加をきたしにくい。特にアジア人の非肥満2型糖尿病では欧米白人に比べこの薬がより有効であります。インスリン分泌不全を主体とする2型糖尿病患者が適応と考えられます。腎機能障害または肝機能障害を有する患者には慎重投与が必要となる場合があります。他の薬との併用でさらに作用が増強することがあります。また、この薬は食事の影響を受けやすいので食事には充分気をつけましょう。

α-グリコシダーゼ阻害薬①

でんぷん等の炭水化物は唾液、膵液中のアミラーゼにより二糖類に分解された後、小腸のα-グリコシダーゼによって単糖類に分解され吸収されます。α-グリコシダーゼ阻害薬は小腸でのα-グリコシダーゼの活性を阻害し、二糖類の分解を阻害して糖質の吸収を遅延させ食後の血糖上昇を阻害する薬剤です。糖質吸収の殆どは小腸上部で行われるため、糖尿病患者では、食後血糖を急上昇しますが、α-グリコシダーゼ阻害薬により糖質吸収を小腸下部に移動させることで、血糖上昇がなだらかになります。摂取された糖質の吸収が遅延されますが、完全に遮断されるわけではありません。

α-グリコシダーゼ阻害薬②

この薬は食後高血糖を呈する患者が適応となります。通常毎食前に服用します。単独使用の場合、血糖降下作用はHgbA1cで0.7%程度と言われています。インスリン分泌作用を介さないため、単独投与では低血糖をきたす可能性は極めて低いです。この薬は1型糖尿病患者にたいしても使用することができ、糖吸収遅延のため食後4~5時間はある程度の血糖が維持されるため、食前の低血糖や食間の軽減にもつながると考えられています。体重が増加しにくい特徴もあります。

α-グリコシダーゼ阻害薬③

比較的多くみられる副作用として消化器症状があります。特に腹部膨満感、放屁増加などがみられます。下痢、便秘を訴えることもあります。これらの症状は薬を少量から開始し漸増することで抑えることができます。また、稀にですが、腸管ガスの増加により腸閉塞症状をみることがあります。そのため、開腹手術や腸閉塞の既往のある患者には特に注意が必要です。この薬を服用していて低血糖が生じた場合はショ糖ではなくブドウ糖を速やかに経口投与する必要があります。ゆえにこの薬を服用する場合はブドウ糖を常に携帯した方がよいでしょう。

ビグアナイド薬①

現在ビグアナイド薬として広く使用されているのはメトホルミンです。メトホルミンにインスリン分泌作用はなく、血糖降下作用の主体は肝臓からの糖放出抑制によるものと考えられています。その作用機序はまだ不明なところがあります。肝臓では糖新生および脂肪酸合成が抑制され、骨格筋や脂肪組織では糖の取り込みを促進させます。腸管では糖の吸収を抑制し、便からの過剰の糖放出を促進させると言われています。しかし、作用機序の全てはまだ、わかっておりません。

ビグアナイド薬②

メトホルミンは他の薬と同等の血糖降下作用が示されており、加えて低血糖を起こしにくく、安全性およびコストに優れています。体重増加をきたさない点も糖尿病の治療薬としては理想的です。また、英国で実施された大規模な前向き介入試験では、メトホルミンのもつ心血管系保護作用が注目されました。メトホルミンは非肥満患者でも肥満患者でも同等の血糖降下作用を示します。そのため、欧米では早期からの使用を推奨しています。

また、他の薬との併用も効果的で、これらの薬の使用量を減らしたり、体重増加を相殺する効果も期待できます。

ビグアナイド薬③

日本において2型糖尿病の病態はインスリンの分泌不全が関与しているため、メトホルミンが第一選択薬というわけではありません。それぞれの状態に応じた治療薬を選択することが推奨されています。単独使用に加えて、他の薬との併用も効果的です。場合によっては低血糖を起こすこともあります。メトホルミンは投与量を増やすにつれて、血糖降下作用が増強します。米国や欧州での使用量は2000~3000mg/日です。わが国では長らく最高使用量が750mgに制限されていましたが2010年以降は2250mgまで使用できるようになりました。これまで以上に効果を期待できるようになりました。低用量から開始して徐々に増量する方法がよいでしょう。

ビグアナイド薬④

米国で開発されたビグアナイド薬であるフェンホルミン使用者において乳酸アシドーシスの報告が相次ぎ、フェンホルミンの使用が中止されました。当時、乳酸アシドーシスはビグアナイド薬に共通する副作用と考えられ、メトホルミンの使用も控えられましたが、1995年から使用が再開されました。メトホルミン投与による乳酸アシドーシスの発生率は10万症例中約3件だそうです。ショックや組織や低酸素血症を抱えた状態の場合が過半数を占めています。このような症例への投与を避ければ、乳酸アシドーシスの発生は極めて低く、他の経口糖尿病薬と変わりありません。他に副作用として比較的多いのは消化器系です。下痢、食欲不振、消化不良等が報告されています。これらは、治療開始早期に発生することが多く、我慢して使用しているとおさまることもあります。

チアゾリジン薬①

チアゾリジン薬はインスリン抵抗性改善系の経口血糖降下薬に分類され、インスリンによる骨格筋におけるブドウ糖取り込み増加や肝臓におけるブドウ糖産生抑制により、血糖降下を発揮します。チアゾリジン薬はその投与により血糖値とともにインスリン値も低下することから、直接的なインスリン分泌促進作用はなく、おもに骨格筋や肝臓におけるインスリン抵抗改善により血糖を改善させると考えられています。ですからインスリン抵抗性が疑われる症例においてより大きな効果が期待できます。具体的には肥満や内臓脂肪蓄積が疑われる症例やメタボリックシンドロームの診断基準で定められたウエスト周囲の長さがそれを上回る症例などです。

チアゾリジン薬②

チアゾリジン薬に特徴的な副作用として、体液貯留に伴う浮腫があげられます。インスリン併用例、女性で発症頻度が高い。循環血漿量の増加により心機能を悪化させる可能性があるため、心不全のある患者、心不全の機能のある患者では投与は望ましくありません。

また、女性において骨折の頻度の上昇があげられており、十分な注意が必要です。また、膀胱癌の発症との関連が報告されており、膀胱癌治療中の患者には投与を避け、膀胱癌既往歴のある患者には、慎重に投与するかどうか見極める必要があります。

SGLT2阻害薬①

SGLT2阻害薬は腎の尿細管でのブドウ糖吸収を阻害することで血糖コントロールの改善をする薬です。インスリン分泌やインスリン作用とは独立して作用するので他の薬と併用可能です。どのステージの糖尿病患者にも適応と考えられます。しかし、腎機能障害を伴う場合では有効性が低下します。また、SGLT2阻害薬投与により、体重減少、中性脂肪の低下、HDLコレステロールの減少、血圧低下の作用が認められます。そして強力な腎保護作用が認められました。軽度の腎障害がある肥満を伴う場合にはこの薬はいい適応でしょう。

SGLT2阻害薬②

SGLT阻害薬の投与初期はナトリウム利尿や浸透圧利尿による脱水を起こす可能性があります。ですから十分な水分補給が必要です。頻度の高い副作用としては尿路感染と性器感染症があり、女性に多いです。清潔に保ってください。また、発熱、下痢、嘔吐などがあるときや食思不振で食事が十分摂れないような場合は休薬が必要です。薬疹を疑わせる紅斑が認められた場合は速やかに内服を中止し皮膚科受診を勧めます。体重減少がありますのでやせ型の患者には慎重に投与する必要があります。