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腎臓内科医の診療日記 No.52

私が部屋でくつろいでいると、船内アナウンスで、「本船は間も無く姉妹船とすれ違います」と放送が入った。フェリーはその航路を1隻の船だけで往復しているのではなく、バスや電車と同じように複数の船が同じ航路を行ったり来たりしている。もうすぐ私の乗っている北海道の苫小牧に向かうフェリーと、昨夜こちらが出航した福井県の敦賀に向かっている姉妹船がすれ違うのである。バスや電車と違うところは、船の場合は姉妹の数が2〜3人と少ないので、目的地に行く間に1人の姉妹としかすれ違わないところだ。アナウンスを聞いた私は早速デッキに出て進行方向の斜め前方に目をやると、こちらの船と同じ型の船が、すぐそこまで近づいてきている。海の上でお互いが衝突しないよう安全な距離をとりつつ、互いの船体が肉眼でよく確認できる距離である。どんどん相手の船が近づいてきて真横に並びかけた時、こちらの船が鳴らした汽笛が大音量で響き渡った。すると少し遅れて、距離に見合った分だけ小さくなった音量で、同じ音色の汽笛が向こうから返ってきた。不思議と胸が熱くなって、涙が浮かんできた。人間は見知らぬ外国の地にいる時に、向こうからこちらに向かって同郷の人が歩いてくると、特別なホルモンが体の中で分泌されて、熱い思いが込み上げてくると聞いたことがあるが、それが今回は海の上で船と船が出逢った時に起きているのだろう。やっぱり船旅はサイコーだな、と思いながら相手の船が小さくなるまで見送り、私は自分の部屋に戻った。

ところで話は少し戻るが、沖縄キャンプデビューで自信をつけた私は、今年の北海道ツーリングにはテントなどのキャンプ道具一式を持っていくことにした。沖縄の時は特大スーツケースで道具を大量に持っていって、レンタカーのトランクや助手席に無造作に積み込むことが出来たが、今回はバイクなので積載量が限られているし、荷造りが甘いと、走っている時に荷崩れして道に荷物をばら撒いてしまう。少し前に県内の1泊2日のキャンプに行く時に、バイクにテントを積んで予行演習をしたのだけれど、北海道に一週間ほど滞在するとなると、日数分の荷物や防寒具なども必要になるので、荷物の量としてはかなり多くなる。持っていくものは厳選する必要がある。何が必要で、何を諦めるか。そんなことを考えていて、ふと北海道には恐ろしいヤツがいることを思い出した。私は最悪の事態も想定して、ネットで秘密兵器を購入してツーリングバッグに忍ばせた。これで、キャンプ中に万一ヤツが襲ってきたとしても、生き延びられる可能性が少しだけ高くなる。仕事でもなんでも、自分にとって都合の良い事から最悪の事態まで、色々想定して準備をしておいた方が良い。スプレーはアメリカ製で、入っていた箱には「FOR BLACK BEAR AND A BAD PERSON」と書いてあった。ふーん、アメリカでは普段の護身用としても、このスプレーが売られているのか。そうすると、カミさんとか怖い女医さんには・・・使っちゃいけないに決まっている。一般的に多くの夫はカミさんの事を怖がっていて、大抵の女医さんは怖いと言われている。私が言っている訳ではありません。一般的に言われているだけです。はい、ごめんなさい。

こんなことを書きながら船の中の有り余る時間をつぶして、ちょっと疲れて部屋の窓から外をみると、そこには普段、病院の窓からは見ることのない広い海の景色が広がっている。なんとも贅沢な時間である。太陽の方向で南の方角とわかる海の向こうに、うっすら小さく陸地が見えている。日本海の場合は、出港してしばらくは南側に陸を見ながら進むのが、これまでの太平洋航路の時と異なっている。太平洋航路の場合は名古屋から北海道まで1日半かかるが、日本海の場合は21時間弱で到着する。到着は今夜、1年ぶりの北海道だ。今回はどんな旅になるのだろう。若くて綺麗な女性ライダーとの出会いがあったらどうしよう、などと一瞬思ったが、昨夜の敦賀港に集まったバイク集団は、100人を超す見事なまでに元気なジジイライダーばかりの大集団で、女性はというと、夫婦で来ているらしきオバサンライダーが1人だけだったのを思い出した。