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腎臓内科医の診療日記 No.62

私が子供の頃の有名なアニメ映画「風の谷のナウシカ」の中で、「腐海」という名前のついた森が登場する。その森は人間にとって有毒なガスが発生していて、おぞましくて巨大な虫の怪物が人を襲ったりするので、人間からは恐れられ、忌み嫌われていた。しかし腐海の本当の存在理由は、人類の利己的な生活のせいで汚染されてしまった水や樹木などを、腐海の地下深くで浄化して再生する、という大いなる役割を担っていて、毒ガスや怪物はその再生の過程で、汚染物質が濃縮されて生み出されたものだった、という感じの話だったと思う。私は映画を観る能力に昔から欠けているところがあって、ストーリーを理解できないままエンディングを迎えてしまう映画も多いし、主人公の名前を、映画を見終わった直後に全く覚えていないこともザラである。ストーリーが複雑な映画の場合、伏線の回収はほぼ不可能で、映画が終わりに近づく頃には頭の中がハテナマークで一杯になっている。ナウシカを最後に観たのはずいぶん昔で、細かな設定や解釈は間違っているかもしれないが、なんとなく、先ほどまとめたようなテーマの映画だったと思う。ちなみに私の好きな映画は、ブルースリーが敵をカンフーでバッタバッタと倒しまくる「燃えよドラゴン」、ヒッピーがバイクでアメリカ大陸を横断する「イージーライダー」、反社会的な主人公たちが改造車に乗って暴走しまくる「ワイルドスピード」である。

西洋医学的な「病気」に対する考え方は、ナウシカの世界の人間が腐海を恐れて敵視するというのに似たところがあって、不意に自分を攻撃してきた「異物である悪い病気」を、薬や手術という手段を使って「病気をやっつける」ことによって、健康な心身を回復していく、という思想がある。実際のところ、ワクチンや抗生物質によって克服された感染症も多いし、透析もやらないと生命維持できない西洋医学の治療である。事故で大きな怪我をして緊急手術で助かることも多いし、胃潰瘍から大量出血して血圧が下がっていたら、内視鏡で止血して輸血しなければ死んでしまうかもしれない。最近では、脳梗塞で詰まった血栓をカテーテル手術で吸い取ることによって、麻痺にならずに済むという、画期的な治療も普及してきている。そのあたりは西洋医学の功績であって、その恩恵は人間にとって確かにある。ただ、私が四半世紀にわたって色々な患者や自分自身を、それなりに丁寧に観察してきた中で、西洋医学のアプローチでは解決できない、あるいは不十分な治療しかできない慢性的な病気があると思っているし、それをどうやったら本当の意味で解決できるのかという視点を持った医師が極めて少なく、どうでも良い、あるいは極端に言えば無い方がよい西洋医学の治療や研究も多くなってきた、と個人的に思うのである。

「目の前で起きている現実が、あなたの最高の治療者になる」という言葉を聞いたことがあるが、あるタイプの体や心の「病気」は、それまでの生活習慣や環境、思考の歪み、身体の不適切な使い方によって、体の内側から必然的に産み出されているように思う。自分自身の溜め込んだ澱に気づき、それらを適切に処理して、心身を日常的にメンテナンスする習慣を身に着けられれば、「病気」が不思議な経過で治ってしまうことがあったり、「健康」な状態を維持しやすくなると思うのである。すべての人や病気で、それがうまく行くとは言わないが、少なくとも私はそうだった。