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腎臓内科医の診療日記 No.61

一般の人にもよく知られた抗生物質という薬は、ばい菌をやっつける薬のうちの1つである。世界で初めての抗生物質として知られているのは1928年に発見されたペニシリンという薬で、イギリスの研究者が実験用のお皿で「ばい菌」の一種である細菌を培養している時に、偶然その中に生えてしまったカビの周囲だけ細菌が死んでしまっているのに気づいて、このカビがつくった物質は薬になるだろうと考えて世界に発表した。ある意味ラッキーなその研究者は、のちにノーベル賞を受賞することになるのだけれど、実は数千年前の古代エジプトで、既にカビを病気の治療に使っていたという記録も残っているので、本当の世界初の抗生物質による治療は、たぶんそっちだろう。ちなみに抗生物質が効くのは「細菌」という種類の病原体であって、一般的な風邪の原因の「ウイルス」や、水虫の原因の「真菌」など「細菌以外のばい菌」に対しては、抗生物質は効かない。「ばい菌」という言葉は「細菌」「ウイルス」「真菌」など人間に悪さをする病原体をひっくるめて指している言葉で、風邪をひいて抗生物質を希望する人が多いのは、そのあたりの言葉が混乱させているせいもあるのだろう。その後、世界中で抗生物質の研究がすすんで、現在では多くの細菌に対する抗生物質が、何種類も薬として発売されている。

おしっこの通り道である「尿路」にばい菌が繁殖してしまう「尿路感染症」という病気にかかる高齢者は多い。膀胱炎とか腎盂腎炎とか前立腺炎とか、ばい菌が繁殖している場所によって、細かく名前がつけられている。尿路感染症も「細菌」が原因になっている事が多く、その場合の治療には抗生物質を使う。とある患者さんに、さっそく抗生物質で治療をはじめてみると、熱が下がって血液検査の結果も良くなってきた。薬が効いてよかったよかったと思って、薬をやめてしばらくしたら、またおしっこが濁って熱が出てきた。前と同じ抗生物質を使い始めたのだけれど、今度はすぐに良くならない。おしっこを詳しく調べてみると、前回使った抗生物質が効かない菌が繁殖していた。細菌検査では、どの種類の抗生物質が効くのか同時に調べていて、前回の菌は10種類くらいの抗生物質が有効だったのだけれど、今回の菌は5種類くらいの薬しか効かない。仕方がないので最初とは別の、効果があると判定された抗生物質を選んで使ったら、熱が下がって血液検査も良くなった。薬をやめてしばらくしたら、また熱が出てきた。今度は2回目に使った薬も効かなくなって、効く薬は残り3つになっていた。こんな風に、抗生物質の治療を続けていると、だんだん抗生物質が効きにくい耐性菌が出てきてしまうことがある。耐性菌のせいで病気が重症化して、命をおとしてしまう事もある。耐性菌が病院の中でまん延してしまうと、多くの入院患者の命が危険にさらされることになる。

病気で弱って寿命が近づいてきている人に、抗生物質による治療をどれだけ続けるか、という難しい問題がある。抗生物質を使い続ければ、それだけ耐性菌が出てくる可能性も増えてくる。抗生物質を使わなければ、弱って自分の免疫力が低下した人は、まもなく死んでしまうこともある。寿命の近い人に、どれだけ耐性菌が出現するリスクや、それなりの医療コストがかかることを覚悟して、積極的な治療を継続していくか。これは、最近のコロナ騒ぎでいう、弱った高齢者がコロナで亡くなるのを防ぐために、どれだけコストをかけて対策していくのが社会的に妥当か、という問いと、ある意味で似ている。お年寄りや弱い人を守るために、副反応の強いワクチンを、元々重症化しない若者にどれだけ推奨するか(ちなみに私はワクチンに感染予防効果は無いと思っているので、「おもいやりワクチン」や「ワクチン3回接種確認」の意味は全くわからないし、最近WHOは若者への積極的推奨をやめた)。このへんについて、私なんかは「人間が年をとって弱って死んでいくのは自然な事なんだから、社会を維持するために大騒ぎせず、適当なところで線引きしなければいけない」と考えているのだけれど、「医者として病気の予防や治療に全力を尽くすのは当たり前だ、命は大切だから、とにかく私たちの言う事を聞きなさい」というご立派な意見を振りかざして大騒ぎする視野狭窄の医者が、残念ながら日本で大変多かったということである。さて頭がオカシイのはどっちでしょう。私はカミさんから「アンタの頭はオカシイ」と言われ続けています。