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腎臓内科医の診療日記 No.60

いつ頃からか、休日を家で過ごす事ができなくなった。単に、家族からじゃま者扱いされて犬にも吠えられるので家に居づらい、という理由だけでなく、他にも思い当たることがある。とりあえず朝、家から出かけて、無理矢理作ったいくつかの用事を済ませて、暗くなる頃に帰るようにしたら、休日が少し充実した。高齢者向けの生き方セミナーなんかでは、「お年寄りには、きょういく(今日行くところ)と、きょうよう(今日の用事)が、必要です」なんていうウマいんだか、年寄りをバカにしてるのかよく分からない定番メッセージがあるが、どうやらその辺の事が、自分も年を取って、当てはまってきたんじゃないかと思う。昔は、自宅で本やマンガを読んで過ごしたり、音楽を一日中聴いたり、パソコンを分解したり、ゴロゴロ寝て過ごしたりしても何とも思わなかった。最近の若い研修医に休日の過ごし方を聞くと、「家でyoutube(注:インターネットの大手動画投稿サイト)動画を見て、一日が過ぎます」なんて答えも返って来る。そういう過ごし方が、年をとって出来なくなった。ちなみに、自分の老化に気づいて感じるショックは「老いるショック」と言われていて、「ゆるキャラ」とか「マイブーム」などの多くの有名な新語をつくった人が、還暦を迎えてつくったウマい言葉である。

前回北海道に行ったときに調べたのだけれど、ヒグマの行動範囲は、オスが数百平方キロで、メスは数十平方キロで、オスの行動範囲の方がメスより広いそうだ。ヒグマは、暇なときに動画をみたり、携帯ゲーム機で遊ぶ事は無いだろうから、食事や睡眠や休息の時以外は、それなりにウロウロしているのだと思う。オスとメスの行動範囲が違うことからは、エサを捕獲する目的以外にも、オスは特に散歩を楽しんでいる部分もあるのだろう。人間も動物なので、似たような本能的欲求を持っていても不思議ではない、というか、誰でも狭い空間に長く閉じ込められているとおかしくなる。つまり、家の中で何かに熱中して時間を潰すというのは、本能的な環境変化の欲求が満たされない場合に溜まるストレスを、目の前の別の対象に執着して感じないようにしているだけの、不十分な代償行為なのである。抑圧されたストレスは、若い頃はそれを溜め込んでおく貯蔵タンクに余裕があるので、本人も一見大丈夫なように見えるが、年齢を重ねて貯蔵タンクが一杯になってくると、限界がくる。時間があれば外に出たいという欲求を強く感じるようになったり、体や心の病気になったり、認知機能が落ちてしまったり、ひどければ突然死してしまう。逆に若い頃から活発に外に出るようにして人生を楽しんでいる人は、年をとっても若々しく元気である。男性は女性に比べてそれが顕著な気がするが、ヒグマのオスとメスの行動範囲の違いと、ひょっとしたら関係があるのかもしれない。このへんの事は科学的に証明されているのか知らないが、とにかく私はそんなふうに考えている。

3年間にわたって続いた騒ぎに、日本でもようやく終わりが見えてきた。日本の医療をリードする立場にいた偉い先生方が、最新医学の叡智を結集して対応策を検討し、緊急事態宣言やらマンボウなんかの対策が打ち出され、ワクチンや治療薬も開発された。多くの国民が偉い先生の言う事を信じてそれに従い、外食や旅行を控えて家に引き籠り、若者も含めてワクチンをバンバン打った。挙句の果てに、「日本の死者数が少なかったのは、我々が指示した感染対策を国民が頑張ったからだ、最新の医療によって開発されたワクチンや治療薬が普及してきたので、もう大丈夫だろう」とエライ先生方が自画自賛を続けたまま、逃げ切ろうとしている。最低限の対策だけで早々に騒ぎから離脱したスウェーデンと、それ以外の国々との、感染者数や死者数、経済的損失などの比較は重要だと思うが、なんだか意図的に報じられていない気がする。日本の対策費用の総額は100兆円とも300兆円とも言われていて、東日本大震災の復興経費の18兆円を軽くブッチギった。そのあたりの費用負担は、遅れて国民一人一人に必ず降りかかってくる。自らを正義と信じた愚かな医者たちが大声で騒ぎ続け、一部の医者や知識人の反論は次々封じられ、ブレーキを誰もかけられなかった。そんなリーダー達の致命的なセンスの無さと、社会構造の欠陥が浮き彫りとなり、医者や医療に対する信頼が失墜した3年間だった。そんなふうに考える医者は、どのくらい居るのだろうか。