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腎臓内科医の診療日記 No.56

私が、「これは科学的ではないけれど、たぶん真実である」と信じ込んでいる事がいくつかあって、そのうちの1つに「担当する主治医によって、仮に同じ薬を同じ患者に投与しても、効き方は違うだろう」というものがある。単純に手術の技量や、知識量、診断能力の問題ではない。ある病気の診断がついている患者に、患者との相性が異なるAとBという2人のドクターが、その病気に「効果がある」同じ薬を、同じ期間だけ投与した場合、ドクターAが診察して処方した時と、ドクターBが診察して処方した時では、効き目や回復までの時間、副作用の出方が変わってくるだろう、という意味である。一般的に薬が発売されるまでには何段階かの試験が慎重に行われて、効く、効かないなどの膨大なデータが解析され、効果が認められて安全性の高い薬だけが発売されている。私の思い込みは、エビデンス(その主張が正しいと証明する、根拠となる統計的なデータ)はまったく無く、経験による単なる思い込みなので、「そんなコトあるわけないじゃん」とバカにしたければ、すれば良い。けれども私はそう信じているのである。

エナジーバンパイアという最近の新語があって、面白い言葉だなと思った。エナジーはエネルギー、バンパイアは吸血鬼で、一緒にいると自分が疲れて、元気がなくなってしまう厄介な相手のことを指している。バンパイア自身は反対に、対象からエネルギーを吸い取るたびに、どんどん元気になっていく。ネット情報によるその特徴は、①ダメ出しをして相手を見下す、②支配しようとする、③否定する、④自分を正当化する、⑤嫌がることをわざとする、などが挙げられている。自分の身の回りにもそんな人がいたかもなーと思う事もあるし、あの時自分がそうだったかもしれないなー、と思うこともある。エナジーバンパイアへの対処法は、相手にせず聞き流す、嫌な事をされたら嫌だとハッキリ言う、距離をおいて縁を切る、付き合わなければいけない場合は最低限の会話にとどめる、だそうだ。

医者は、病気で弱った患者と向き合う時には、最初から強い立場に立っている。そんな患者から相談をうけたとき、ウッカリすると、自分より人生経験の豊富な相手にエラソーな態度で病気の解説をして、生活習慣にダメ出しし、薬の飲み忘れなんかがあると、鬼の首を獲ったように怒ったりする。いつの間にか話す口調も高圧的になっている。そんな自分を客観視して、立場的に強いところにいる自分に十分ブレーキをかけながら、相手に対して敬意を忘れずに接する医者が処方する薬と、無意識にエナジーバンパイア化した医者が出す薬は、効果が違うに決まっている。処方する薬に、プラシーボ効果を上乗せできる医者と、マイナスのプラシーボ効果で薬効を打ち消してしまう医者がいるのである。経験的にそう確信しているのだけれど、科学的に証明することは、まずできない。

ところで、うちのカミさんがエナジーバンパイアという新語を知っているかどうかは知らないが、その言葉と意味を知ったら間違いなく、「それ、アンタのことじゃん」と言われるに決まっている。だから、あえて話題にしようと思わないが、考えてみると、ずいぶん前から最低限の会話しかしてもらえないので、話題にする機会がない。はい、それが正しい対処法です。