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腎臓内科医の診療日記 No.55

円安、物価高という言葉が毎日のようにニュースで流れ、身の回りでも牛丼やハンバーガー、回転寿司などの価格がジリジリ上昇している。アメリカに行ったら、普通のサンドイッチが1500円、ビールとホットドッグで3000円だった、なんて話も聞く。アメリカのその数字は円安の影響も大きいが、日本国内のモノやサービスの値上げも目立っていて、原材料費、エネルギーコストの上昇、ウクライナ戦争などが複雑に関係しているらしい。私は経済の事は昔からよくわからなくて、旨い儲け話に騙されてはいけないという警戒心も強いので、携帯にかかってくる「マンションを購入して資産運用しませんか」という勧誘電話も、疑心暗鬼になってすぐに切ってしまう。電話を切るスピードがあまりにも早いので、かけてきた相手は結構ムカついていると思うが、こっちも騙される訳にはいかない。医者は自分の専門分野に専念していれば、安定した収入が得られて生活に困りにくいので、経済や社会情勢についてよく知らないまま生きている人も、実は多い気がする。

ちょっと違う話だけれど、医療の分野でも、昔より高額な薬剤が、どんどん増えてきている。便秘の薬で言うと、昔からよく使われてきた薬は1日分で約10円だが、最近発売された新薬は1日で約200円かかる。毎日飲んだ場合、古い薬なら1年で4千円弱、新しい薬なら7万5千円になる。腎臓病の患者が時々処方されるカリウムを下げる薬は、単純に言うと古いものは1日200円、新しいのは1000円、1年ではそれぞれ7万5千円と36万円である。昔の風邪薬は5日分130円、新型コロナウイルスの注射薬は5日分 38万円、飲み薬は5日分9万4千円である。他にも抗がん剤とか、血圧の薬とか、免疫の薬とか、高額な薬剤が次々発売されている。薬の費用はすべて直接患者に請求される訳ではなく、ほとんど税金と保険料から支払われる仕組みになっていて、患者負担はごくわずかなので、高い薬を使っても、支払いをする患者から文句を言われることはあまりない。そんなわけで、結構多くの医者が、このあたりの医療経済の事について思考放棄していて、高額な新薬の処方に抵抗をあまり感じていないようにみえる。新しい薬は昔の薬に比べて「よく効く」ので使う事は正義だ、というある種の原理主義に陥っているんじゃないかと思う。コロナの騒ぎについても、そんな原理主義者たちにも責任の一端があるような気がする。ちなみに透析は1人1回あたり3万円の医療費がかかっていて、1か月で40万円、1人年間480万円である。

ところで、薬に対して懐疑的な考えを持つヒトも昔から多い。人間に元々備わっている回復力を無視して、出ている症状を抑え込む対症療法は一時的な効果しかなく、ある意味では有害である、という考え方である。私にもそういう所があって、以前、自分自身が体調を崩して「慢性的に飲み続けないと症状が抑えられない」薬を必要とするようになった時に、薬が無くても大丈夫な体に戻す方法を探して、薬を少しずつ減らして、最終的にすべてやめてしまった。そうしたら、前より楽に生きられるようになり、通院費や薬代もかからなくなった。一応大事な事を言っておくと、医学的な知識を持たない人が、飲んでいる薬を勝手にやめてしまうのは危険で、減薬するにはそれなりの知識と工夫が必要である。わかっている「専門家」に相談しながら進めなければならない。けれども残念ながら、「薬を必要としない体に戻す」「どうにもならない場合だけ最低限の安全な薬を使う」という当たり前のコトを忘れかけている先端医療原理主義の医者が増えてきて、高額な新薬がバンバン売れると製薬会社が儲かるしくみがあって、安易に薬で楽になりたい人も多くて、薬漬けのニンゲンがどんどん増えているような気がするのである。