医療法人 慈照会グループ

採用情報

ホーム > 腎臓内科診療日記 > 腎臓内科医の診療日記㊼

腎臓内科医の診療日記㊼

ソロキャンプといって、一人で海や山のキャンプ場に出かけてテントを張って、静かに焚火をして食事を作って食べる、という新しい形態のキャンプが少し前から流行っている。二年前にコロナの騒ぎが始まってからは、キャンプが他人と距離をとって楽しめるレジャーとして人気が高まっていて、ソロキャンプ人口もますます増えている。昨今、人気のキャンプ場は、週末になるとソロキャンパーや家族キャンパーで予約が一杯になっているそうだ。ところで、ひと昔前までキャンプと言えば、パリピ(注※パーティーピープルの略。人生を明るく前向きに生きている人達を指す言葉で、コミュニケーション能力や運動能力が高く、サッカー、テニス、サーフィンなどのスポーツも得意。大勢で賑やかにレジャーや飲み会を楽しんでいる事が多く、それを妬んだ私のようなネクラ人間によって、「お気楽なヤツらが、バカ騒ぎしやがって…」と逆恨み的なニュアンスで使われる事が多い。しかし、そんなネクラ人間は、パリピの視界にそもそも入っておらず、パリピ自身は「人生楽しく生きた奴が勝ちだぜ、パリピ最高、イェーイ」と思っているので、まったく無傷である。類似語に「リア充」がある。)~が大勢、海や山に出かけて賑やかにバーベキューやテント泊を楽しむものだったが、ソロキャンプは、そんな従来のキャンプのイメージとは異なる。

私自身は、サッカーやサーフィンなどのカッコいいスポーツの才能はカケラもなく、中学高校で入部した室内および水中の運動部はすぐに幽霊部員となり、部屋でゲームをして、暗い洋楽ロックを聴いて、文化系サークル室で麻雀を打ち続けて、パリピとは正反対の大人になった。働き始めてからも、周囲のパリピ研修医が合コンで王様ゲームに興じるなか、パリピ文化とは無縁のまま質素な生活を過ごした。奇跡的に結婚して子供が出来たのは良かったが、基本的に協調性が無かったので、家庭のことは妻に任せきりになった。中年になって時間が出来て、妻や子供と遊ぼうと思ったら、遊んでくれなくなっていた。仕方がないからバイクの免許をとって一人で走り回るようになって、雑誌でソロキャンプの特集などみているうちに、テントでも買ってみようかなと思うようになった。昨年の春に、雑誌で紹介されていた評判の良いツーリング向けテントをネットで注文したところ、人気で注文が重なっているため納入未定、と連絡がきた。それから半年が経過し、注文した事も忘れかけていた晩秋のある日、ようやく家にテントが届けられた。

既に寒くなり始めていたが、キャンプ熱が再燃した私は、ソロキャンプデビューを目指して自宅の庭でキャンプの練習をすることにした。雨の降らなそうな週末の夕暮れに、家の中の家族から白い目で見られながら、慣れない手つきで庭にテントを張りはじめた。室内で飼っている、私を見ると吠える犬が、窓の内側からいつものように吠えていたが、しばらくして妻に抱きかかえられて奥へ消えていった。購入したテントは、説明書を読みながら、小一時間でなんとか張ることができた。夜は冷え込むので、テントの中に布団と電気毛布を入れて、快適に寝られるようにした。テントの隣に、ホームセンターで購入した安くて座り心地のよいキャンプチェアを置いて腰掛け、自分の左右に置いたポータブルスピーカーでお気に入りの音楽をかけながら、慣れない手つきで薪を割って、たき火を起こした。日も落ちて周囲が暗くなり、雰囲気も盛り上がってきている。グラスにウイスキーをストレートで注ぎ、少しずつ口に含み、香りを楽しみながら喉に流し込む。ほろ酔い状態で、たき火の上に置いた鉄板で肉や野菜を焼き、特製のタレをつけて食べる。…ウマくない訳がない。気温も低くなってきているが、たき火のおかげで体はポカポカと暖かい。椅子の背にもたれ、ゴキゲンな音楽に包まれて、炎を見つめながらウイスキーを楽しむ。至福の時間だな、コレは。ついついウイスキーも進む。

そんな優雅な時間に浸って小一時間がたち、良い感じにデキ上がった頃、ふと尿意を催してきた。お酒を飲んだあとは、浸透圧利尿と言って体では尿がたくさん作られるので、トイレの回数が増える。今日はいつもよりたくさん飲んだし、夜中に何度も目が覚めそうだ。酔っぱらったまま、テントから家の中のトイレまで何度も往復するのも、けっこう大変そうだな。そんな事を考えながら玄関のドアを開けると、私の気配に気づいた例の犬が近寄ってきて、私に向かってまた吠え始めた。ウンザリした表情の妻がすぐに奥から出てきて、犬を両腕で抱きかかえると、犬はおとなしくなり、勝ち誇った表情で私をじっとみた。妻が私に、「犬が吠えてウルサイから、夜は家の中に入ってこないでちょうだい」と言った。(来月に続く)