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腎臓内科医の診療日記㊵

この原稿は、太平洋上で書いている。部屋の窓からは大海原を見渡すことができて、天気も良い。持ち込んだ2個のbluetoothスピーカーからは、大音量は出せないけれど、お気に入りの音楽が心地よく流れている。書くのに疲れたら、ソファの上のバイク用ツーリングマップを、何気なしに開いたりしながら、ダラダラしている。

今年の北海道は、フェリーで行くことにした。3年連続3回目の北海道バイク旅である。1人で自由に旅行ができて羨ましいですね、と若い先生から言ってもらえる事もあるが、私には私の事情がある。いつ頃からか、私の姿を見るだけで一瞬で不機嫌モードに切り変わるカミさんはもとより、2人の娘からは、パパと一緒に旅行に行っても話が合わなくてつまんない、とハッキリ言われ、息子には相変わらず避けられているし、飼い犬のルイちゃんには、会うたびに怪しいものを見たかのように、激しく吠えられる。自宅では生きているのに地縛霊のような存在の私にとって、自分を守るためには逃げることが必要で、「これが私の生きる道〜 by PUFFY」なのです。どうですか、羨ましいというより、可哀想になってきたでしょう。

一昨年はバイクだけフェリーに乗せて、自分は行きも帰りも飛行機で移動した。名古屋港から苫小牧港までフェリーの片道が1日半かかるので、飛行機とバイク輸送を別々に手配すれば休みを有効に使えて、現地でも乗り慣れたバイクで動くことができる。しかしやってみると手配も手間だし、港までバイクを運んで電車で帰ってきたり、空港まで重い荷物を自分で運んだり、空港から港までも少し距離があったりなど、何かしら面倒な事も多かった。昨年は手軽な、飛行機+レンタルバイクのプランにしたが、日常的にバイクを所有している自分にとっては、レンタル自体も割高感があるし、転倒などの万一のトラブルの際には、さらに高額な追加料金を請求されるのも、基本的にケチな性分なので気になった。そういう訳で今年は、現地滞在は短くなるが、シンプルなフェリーの旅で予定を組んでみることにした。

乗船予定のフェリーをインターネットで予約する際に、職業を記入する欄があった。医療従事者というチェックボックスがあったので、チェックした。すると、最後の方に追加で質問が現れて、「医療従事者の方にお尋ねします、船内で体調不良の方が現れた時に、手伝ってもらえますか?」と聞かれた。困った。若い頃は、救急外来に運ばれてきた重症の患者も多く診ていたけれど、最近は年をとってそういう機会も滅多に無くなり、知識も専門分野に偏ってきている。かといって「いいえ」と無碍に断って、フェリー会社の人に「この人、医療従事者のくせに、何かあっても手伝ってくれないんだってー、ケチな人ねー」と悪く思われるのも嫌だ。ほんじゃ、最初から職業を偽っておくか。それとも待てよ、自分に出来る事を手伝ったら、結果的にサプライズで乗船料金をチャラにしてくれるとかねーかな、などと基本的にケチな発想で、最終的に「はい」にチェックを入れた。

フェリーは、夕方に名古屋港を予定通り出港した。大浴場で汗を流した後、船内のレストランに入り、窓の遠くに流れていく知多半島の街灯りをボンヤリ眺めながらビールを飲み、雰囲気の良い夕食を楽しんだ。非日常の感覚って、やっぱりいいよな。自分の部屋に戻ってベッドに横になり、20年以上前に人から借りパクした海外文学を読んでいると、まもなく眠くなってきた。消灯時間の船内放送が流れ、「夜間の緊急時は、インフォメーション窓口のインターフォンでお知らせください」と、アナウンスされた。・・・・・緊急時って、誰かの体調不良だったりもするよな・・・・・夜中に急患が発生したら、この部屋の電話が鳴るかも知れないって事だな・・・・・出来れば、鳴らないで欲しいな・・・・・うーん、病院の当直と変わらんゾ。私はケチな妄想に怯えながら、「はい」と答えたことを、少し後悔した。