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腎臓内科医の診療日記㊱

最近は、外来の定期診察にきた患者さんや、顔見知りの方などから、ワクチンは打った方がよいのでしょうか、と質問されることがよくある。聞いてくるのは、大抵お年寄りの方なので、とりあえず「お年寄りの方はかかると危険で打った方がよいと言われていますので、打っておいてはいかがでしょうか」と、卑怯な答え方をするようにしている。そういう解釈が無難だろうけど、実はよくわからん、というのが本音なのだが、不安な気持ちで質問してくれた相手を混乱させるのもナンだし、下手な発言をすると、吊るし上げられて辞任に追い込まれてしまう。大きな組織から給料をもらって細々と生きている身としては、辞任しなくて済むギリギリのところを狙っていくしかない。

ワクチンは開発段階の調査で、接種した人のグループから発症した人がわずかだったのに比べて、接種しなかった人のグループからは比較的多くの人が発症してしまって、一方で接種した人に特別危険な事はおきなかった。そのあたりの解釈から接種を推奨しているのが政府や専門家であって、私は必要に応じて、それを受け売りしているだけである。もう少し詳しい数字を出すと、グループの人数はそれぞれ約18000人ずつ、うった人から発症したのが8人、うたなかった人から発症したのが182人である。うたなくても18000人のうち99%の人は発症してねーじゃんと指摘するワクチン反対派の人もいるが、高齢者や基礎疾患のある人は日本でも結構死んでいるので、そういう人は念のため打っておいた方がよい、という理屈は、ある意味正しいとも思う。透析患者の致死率も高い。接種がすすんでいるイスラエルの研究でも、ワクチンの効果は今のところ肯定的に解釈されている。

難しいのは、健康な若い人や、以前に何らかのアレルギーを起こしたことがある人である。健康な若い人は、感染しても多くが無症状で重症化する人はほとんどいないので、本人レベルでは接種するメリットはほぼない。一方で、ワクチンを打った若い人は、ウイルスを他人に媒介する可能性も低くなるという理屈で、社会全体でみれば若い人も打っておいた方が感染が広がらずに済む。その辺のスケールを小さくしたのが、病院における若者の医療従事者であって、リスクの高い病弱な高齢者のメリットを考えつつ、自ら感染の機会も多いであろう医療従事者は、基本的に接種を推奨されている。もう一つの難しい場合が、アレルギーを起こしたことがある人で、日本でもワクチン接種後にアナフィラキシーという重症のアレルギー反応がみられたというニュースが流れている。アナフィラキシーで有名なのは、ハチに刺されて死ぬというケースで、毎年20人前後の人がハチに刺されて亡くなっている。ヘタすると死んでしまうのが、アナフィラキシーである。そのため、過去にアレルギーの既往のある人は、リスクを冒してまで接種した方がよいのか、しない方がよいのか、何とも言えない。他にも長期的な安全性などの、よくわかっていない重要な問題もあるが、だいたいこんなところが、現時点での多くの日本の専門家の共通認識、空気感だろう。

一方で、ワクチン不要論を唱える人も、一部の専門家および非専門家にそれなりにいる。ワクチン接種が進んでいるチリでは、今のところ感染者は減っていないようだし、イスラエルの感染者が減っているといっても、ワクチン接種が進んでいない別の国でも感染者は減っている。情報をいろいろな所から集めて、自分なりに考えてみると、わからなくなるのである。それに私は、いろいろな場面で日本の医療の常識とは異なる考え方も持っているので、私の本音をイチイチ話しているとキリがないし、うまく伝わらない。いつか、どうだオレが正しかったろうと言ってみたい気もするが、そういう人は大抵ただの奇人変人として、理解されずに消えていくのが、残念ながら世の常である。