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腎臓内科医の診療日記㉜

「袖振り合うも多生の縁」という言葉がある。表現は諸説あって、「袖触れ合う」とか「他生」とかの表記でも良いようだが、いずれにせよ、どんなささやかな出会いも、前世からの深い縁で起こっているので、人との出会いや絆を大切にしましょう、という意味である。私自身は内向的で、あまり多くの人と積極的に交流してこなかったし、どちらかと言えばというか、ハッキリ言ってしまえば引きこもりに近く、人との絆を大切にしてきたとは言い難いトコロもあるのだが、気づいたら、人生折り返し地点を過ぎたか、運が悪ければ残り少なくなってしまっているので、残りの人生は、そのあたりを出来るだけ大切にしながら、生きていきたい。

ところで先週、短い休暇をとって九州ツーリングに行ってきたのだが、別府港から帰りのフェリーに乗る前に、ちょっと時間があった。せっかく別府まで来たのだから温泉にでも入っていこうと思い、スマホで日帰り入浴の出来る温泉をしらべたら、ほどよい感じに熟成された外観の、竹瓦温泉という古くからある温泉がでてきた。ナビを頼りに、いかがわしい雰囲気の店が並んだ路地を通りぬけて、なんとかたどり着いたのだが、入口の扉が閉まっていて、前に「17時まで取材対応中」と書かれた立て札が立っていた。なんだよ、ツイてねーな、と建物の前の路地に駐車したバイクの横で、取材とやらが終わるのを待ってから温泉に入っても、フェリーの時間に間に合うだろうか、などと考えていると、ふと周囲の人々がざわめき立ち、前方のパーキングの方から、誰でも知っているお笑い芸人Hさんと、そのすぐ後ろを有名リアクション芸人Dさんが、無言のまま、颯爽とこちらに向かって歩いてきた。撮影中らしきテレビカメラと、何人かのスタッフもついてくる。私の前を通り過ぎるとき、先頭を歩いていたHさんが私に向かって「ご迷惑をおかけしてます~」といった感じに、目で挨拶をしたようにみえた。一瞬の出来事だった。(あとでわかった番組名から出演者を調べると、有名芸人Oさんも恐らくその場に居たはずだが、マスクをしていたせいか、気づかなかった。)番組撮影中の一行は、そのまま風情のある建物の入り口を、テレビで聞き覚えのある声で解説しながら中に入っていき、まもなく建物の中から、熱いお湯をいきなりかけられた様子のリアクション芸人Dさんの聞きなれた大声が、古いガラス窓越しに聞こえてきた。それからしばらく、DさんやHさん(と、おそらくOさん)の大きな声が窓の外にも聞こえていたが、17時には静まり、予定どおり一般のお客さんも入場できるようになった。私も中に入って、脱衣所から出てきたばかりのDさんや、まだ脱衣所の中にいた半裸のHさんとすれ違いながら、本当に熱いお湯が張られた小さな湯舟に、他のお客さんと一緒につかり、入浴後にビンの牛乳を飲んでから、港に戻った。フェリーは定刻どおりに別府港を出港し、フェリーのレストランで海の夜景をみながら日本酒を飲み、さっきみたいな偶然の出会いも、言ってみれば前世からのご縁なのかな、と軽くテンションが上がって、そのまま眠りについた。

翌朝目覚めて、朝風呂にでも入ろうと、フェリーの別の階にある大浴場の扉をあけると、すでに同じように早起きした大勢の人で込み合っていた。洗い場の椅子に座って体を洗いはじめると、まもなく私の横に、大きな身体にくまなく入れ墨の入った、間違いなくそちらの業界の方が座り、隣どおし並んで体を洗うことになった。これも前世からのご縁なのだろう、と、覚悟して体を洗い続けた。