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腎臓内科医の診療日記㉗

大河ドラマが面白くなってきている。本放送の方は、コロナ騒動により桶狭間の戦いのところで一時中断してしまっているようだが、私は日曜日の夜の本放送で観たことはなく、インターネットのNHKオンデマンドで、ずいぶん遅れて視聴している。少し前まで、自分にとってはそれほど面白い展開でもなかったので、あまり視聴が進んでいなかったのだけれど、織田信長と斎藤道三のからみが出てきたあたりから、俄然面白くなってきた。道三を演じるモックンが、毎回シビれるセリフを言ってくれる。昨日の真夜中に観た回では、道三が「十兵衛、人の上に立つ者は正直でなくてはならぬ。偽りを申すものは必ず人を欺く。そして国を欺く。決して国は穏やかにならぬ。」と、家督を譲った高政の政のやり方をみて、若き日の光秀に語り、「家督を譲る相手を間違えた。間違いは正さねばならぬ。」と言って、息子である高政を討つ決断を伝えた。シブいぜ、道三。どうやら、世間でも同じような感想を持っている人が多いようで、大河ドラマでは珍しく視聴率のV字回復をみせているようで、真田丸以来らしい。真田丸も面白かった。マラソンランナーが悪いわけではないが、やはり大河ドラマは、こういうのが面白い。

当時の政の進め方は、今の日本の民主主義からはずいぶん離れたもので、権力者である殿様と少数の側近の価値観によって、迅速に物事が決断され実行されていった。実際に見ていた訳ではないが、必要に応じて側近の意見すら殿が一言「黙れ」と言って、目の前のトラブルに対して殿の価値観で方針を決断することが優先されただろう。戦国時代は非常事態の連続なので、悠長に議論している暇などない。現状維持でよいではないか、そのやり方はこういうリスクがあるじゃないか、データを揃えてどれが安全か考えよう、別に急がなくていいんじゃないの、そう考える根拠をもっと示してくれ、などとトンマな事を言っているヒマはない。一方で、殿様の状況判断力や作戦がまずければ、他国との戦に敗北してしまったり、内乱が起きたりして、国は混乱する。殿が自分勝手な人であれば、殿とその側近ばかり裕福になって、民衆は苦しむ。

時を経た今の日本においては比較的平和な世の中となり、歴史的に国内外の独裁者の暴走による混乱なども目立っていたので、それらを反面教師にして民主主義が国民を「支配する」国となってきている。高校生から大学生くらいの頃に、社会に出たときには、ディベート(議論で相手を説得する)能力が必要であると教わった。あるサークル団体では、その能力を高めるために、テーマを適当に決めて、そのテーマに対する異なる意見の2つのグループをつくり、無作為にどちらかのグループに所属し、お互いに自分の主張が相手の主張より「正しい」ことを言葉で「証明する」トレーニングを積んでいた。どうやって自分の意見に説得力をもたせるか、というトレーニングである。民主主義の方針決定は、会議の場で決定されるからである。

一方、そのような人の発言は、実は私にはけっこう胡散臭く感じられ、いくら議論で相手を黙らせたといっても、申し訳ないが信用できないことが多かった。冷静に発言内容を観察してみると、乏しい経験や知識、狭い視野からくる偏った思い込みに、不思議な自信をもっているに過ぎなかったり、無意識のうちに、あるいは悪質な場合は意図的に事実を捏造して説得の材料につかっていたりすることもある。言葉に感情を上乗せして相手に恐怖感を与え、黙らせていることもある。いつも怒って政府に言いがかりばかりつけている野党の女性議員も、ネットでよく嘲笑の的になっている。このような発言者の意見が議論の場を支配してしまうようなことがあれば、昔の体制に置きかえて言えば、愚かな殿様の戯言に家臣や領民が付き合わされるようなものである。つきあっちゃいられない。まず磨いておいた方がよいのは、解決すべき問題の「解決法」を真っ先に見抜くセンスであり、そちらが養われないまま自分のこだわりの正しさだけ証明する手法は、公にとって害悪になるので身に着けない方がよい。

医者が患者の治療をするということは、「自分が担当している患者の病」という非常事態に対して、誤解を恐れずに言えば「殿」である医者が、適切に評価し決断していくことの連続である。患者の病態は刻々と変化していくし、自分の決断が裏目に出ることもある。そういった中、変なこだわりや感情は捨てて、必要に応じて迅速に方向修正をおこなっていくことが肝要である。「戦」は患者の病がよくなるまで続く。このような状況で必要なのは、民主主義による時間をかけた議論より、リーダーの迅速で的確な決断である。そして、必要に応じて民主主義のよいところも取り入れていけばよい。「殿」も人間なので、自分の気づかない間違った思い込みに基づいて判断していたり、単純なミスをしたり、良かれと思って選んだ治療を行っていても、副作用や合併症により状況が悪くなっていく場合もある。そのあたりは複数の医師があつまった場で、冷静に話し合って早期に発見し、すみやかに修正していけばよい。ただ、患者の危機という緊急事態宣言下では、リーダーの迅速な決断の方が予後に直結することが多い。そういうわけで、医者は常に自分のセンスや能力を磨く努力をしていかなければならない。若い医者ももちろんそうであるし、私のように年食った医者も、若い頃より様々な能力が衰え始めていることや、長い経験から頑ななこだわりを持ち始めている事に気づかねばならない。