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腎臓内科医の診療日記㉔

不寛容な時代になった。ものごとの評価や判断に遊びというか、余裕がない。車で言えば、ハンドルを少し切れば車は大袈裟に左右に蛇行し、アクセルやブレーキをちょっと踏むと急加速、急停止してしまう。芸能人が脱税や不適切な交友で謹慎するのは仕方がないと思うが、フリンや薬物中毒は本人達の問題なので、他人がとやかく騒ぎ立てるような事でもないだろう、とか思ってしまう。しかし世間では、そうは問屋が卸さないようで、報道のあとにデッくんの擁護をして、周囲の女性から総スカンを食って撃沈する男性が、巷で続出したようだ。週刊誌やワイドショーは容赦なく本人を追い込んでいく。芸能人にも常識が求められるようになってきて、その分ギョーカイに面白みが無くなってきている。犯罪はいけないけれど。

病院でも不寛容な事が多くなった。昔は簡単な口頭説明だけで済ませていた検査や治療について、説明書にそってやたら詳しく説明し、細かい同意書にサインをもらう。同じことを行うにも昔より多くの手間が必要となり、素人からすれば訳のわからない同意書が束のようになり、医療者の業務量や労働時間は増大した。結構前の事になるが、病院はサービス業なので患者さんの事を「患者様」と呼びましょう、という事になってしまって、研修医もそういう教育をうけることとなった。研修医が救急外来に来た患者やその家族から話を聞くときに、患者が座っているベンチの前で床に立膝をついたりして、○○サマ、△△して頂いてもよろしいでしょうか、とか言っているのをみると、「オマエ、それは違うだろう」と、つい後ろから飛び蹴りしたくなってしまう。ホストクラブじゃねーんだゾ。誤解のないように言っておくと、ホストクラブに遊びにいく女性は、たぶん男性にそのように扱って欲しがっているので、ホストは正しい。私は昔から、ふんぞり返って患者や看護師に向かって高圧的な態度で接するエラソーな医者のことは嫌いだったが、妙に患者に対して下手に出ている若い医者にも腹が立ってくる。患者が病気で困って助けを求めてきているんだから、医者だったらハッタリでもいいから、相手が安心できる態度を上手にとっとけ。そんな事を思っていたら、今度はゆとり世代研修医の、信じられないような横柄な態度や言葉遣いを目にして、また飛び蹴りしそうになってしまった。私はブルースリーが大好きで映画を全部観ているし、子供の頃にゴールデンタイムのプロレス中継を毎週見ていたのだ。ひ弱な中年だと思ってナメんなよ。ちなみに、格闘技経験は全くない。

コロナパニックをみていると、各国政府やWHOが向き合っているのは、コロナウイルスではなく、パニックになった人々のような気がしてしまう。元NHKキャスターの木村太郎さんが、ある番組での感染症の専門家を含めた討論に対して怒っていたようだが、その討論内容が、「新型ウイルスって言っても、季節性の流行性感冒と違わないんじゃないか、インフルエンザで年間1万人死んでいるのだから、それが多少増えたって大した問題ではなく、そのせいで国民の大きな生活が犠牲になるのは、いかがなものか」という内容だったようで、木村さんは、「年寄りが死んでもいいってのか」と怒っていた。一応、どこの病院も行政からの指導に従って慎重な対応を心がけてはいるが、「年寄りが~」は別として、木村さんに怒られる医者は結構多いんじゃないかな、そんな事を思っていたら、WHOが新型肺炎の致死率を上方修正し、パンデミック宣言を出した。ネットニュースの意見欄には、表明が遅いだの、元凶はおまえらだとか、不平不満や怒りが一気に書き込まれた。もう少し騒がずに、冷静に自分ができる事を考えた方がよいと思うのだけれど、止まらない。不寛容社会の中で、多数派の感情論に巻き込まれずにいるのは、為政者にとって色々な意味でリスクも高いが、必要に応じてそこを上手にやってもらいたい。新しいものの正体を把握して未来を見通すのは、専門家でも難しい。素人がいちいちウルサイ事を言わない方が、結果的によい結果が生まれ、怒りに任せた過剰な反応が事態を混乱させることは、よくある。怒りが生じたときには、多くは裏側にある恐怖や悲しみ、喪失感などの感情と向き合って、受容する必要があると言われている。