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腎臓内科医の診療日記㉓

新型コロナウイルスによる新型肺炎の名前がCOVID-19になった。このウイルスについては、年明けから恐怖のウイルスとして連日メディアで報道されているが、私の周囲というか、日本の医療関係者の感じている危機感と、日本政府を含めた世間の人々の危機感との間に、なんとなく温度差がある気がする。先日も喫茶店で読んだ週刊誌に、我々の業界では有名な感染症科の教授が、致死率はインフルエンザに比べて低いようで、騒ぎ過ぎなのではないか、必ずしも世論は科学的に正しくないこともある、というコメントを寄せていた。一方で、中国のある省では、ウイルスを故意に拡散させた人には最高で死刑、検疫を拒否してウイルスを拡散させたら懲役7年とする方針が公表され、横浜港でもダイヤモンドプリンセス号の乗客が隔離されたままとなっている。私も直感的には前述の教授の意見に近いが、自分が正しいと信じ込んでしまって油断するのも危ないので、本当の危険性が時間とともに明らかになってくるまでは、指示された事には従っておこうと思う。自分自身の考えに囚われず、新しい情報に合わせて速やかに方向修正する能力は、やはり必要である。

一方、COVID-19とは関係ない一般的なコロナウイルスは、風邪の原因ウイルスのひとつと言われている。この誰もが知っている「風邪」に対しては、医学的な意味での原因治療はない。風邪薬は、熱を下げたり喉の痛みを和らげる解熱鎮痛剤と、咳を抑える咳止めと、鼻水を抑える抗ヒスタミン薬などを混ぜたもので、症状を緩和する対症療法を行っているに過ぎず、「原因ウイルス」をやっつける働きはない。風邪をひいたときに、「特効薬」として抗生物質の処方を希望する患者さんは多いが、抗生物質は微生物の中でも「細菌」に対する薬なので、同じ微生物でも「ウイルス」が原因である風邪には、理屈上効かない。単なる風邪には抗生物質は使わず、風邪の経過中に二次的に細菌による気管支炎や肺炎を合併してしまった場合にだけ、必要に応じて抗生物質を使うようにしましょう、と医学生の時に教わった。たぶん今でも、これが医学的な常識である。私も風邪の人に対しては、そのように対症療法を行うか、特に希望がなければ風邪薬も使わない。薬で早く楽になりたい人からは、冷たい医者と思われるかもしれないが、仕方がない。

ところで、「風邪の効用」という、明治生まれの野口晴哉という整体師が書いた本がある。野口さんは昭和の療術界で活躍した人で、結婚相手が近衛文麿総理の娘さんというあたりは、いろいろな意味で只者ではなかったようだ。人間を医者とは違う目線で丁寧に観察し、独自の療法を編み出して施術をおこなっていた。「風邪の効用」に書かれている内容を簡単に説明すると、上手に風邪をひく(経過させる)と、様々な体の歪みが解消されて元気になるので、風邪をうまく利用して健康になりましょう、というようなもので、西洋医学の考え方とはまったく異なっており、多くの医者は知らないか、知る機会があっても非科学的だとして、そのまま無視してしまうと思う。けれども、私にとってはとても面白い内容だったので、今でも愛読書の1冊となっている。一応、当たりまえの事を確認しておくと、透析治療や結核治療のように、西洋医学の恩恵を受けて、昔はどうしようもなかった重い病気から回復している人がいるのは間違いない。しかし、壊れた車の部品を修理したり交換するかのように、人間の体を臓器ごとにモノとして研究し、治療しようとしている現代医学は、大切な何かを見落としている気がするのである。私の立場でこんな事をいうのもナンだが、全面的に信用する気にならない。何かもっと良い方法があるんじゃないか。そのあたりの事を、コッソリ考え続けていこうと思っている。研修医の頃に出会った、とある小児科の先生は、休日は漢方の研究をずっと続けていると言っていた。ロックンロールとタバコが大好きな、年配のカッコイイ先生で、病院の喫煙室にしょっちゅう出入りしていた。最近の病院は、どこでも敷地内全面禁煙である。お元気にされているのだろうか。