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腎臓内科医の診療日記⑱

これまでにも何度か、北海道に行ったことがあった。学生の頃に男3人で寝台列車に乗って北海道の各地を巡った旅は、若き日の良い思い出である。20年前に一緒に楽しく美瑛の丘でサイクリングを楽しんだ妻は、今の妻と本当に同一人物なのだろうか。8年前には透析学会が札幌で開催され、会場付近だけではもったいないと思い、小樽のホテルに泊まり、運河沿いのオシャレな店でワインやジンギスカン料理を同僚と堪能した。透析学会は毎年北海道でやってくれてもよい。そして今回の旅行は、これまでと違ったスリリングな旅行だったが、なんとか無事に帰ってくることができた。

免許をとってから、バイクで週末に海や山に遊びに行くというインスタ映えのする趣味ができたが、別にインスタグラムはやっていない。そして、趣味は何ですかと聞かれると、バイクでツーリングに行くことですと少し誇らしく答えているが、実はそれほど出かけていない。気持ちよくバイクに乗れるシーズンは少ないのである。寒い季節は手足が凍りそうになるし、雨が降るとレインコートを着込んでスリップしないように慎重に走らなくてはならない。そして名古屋の夏は、まとわりつくような湿気と暑さとエンジンの熱気と渋滞で地獄である。そんな中、働き方改革で、管理職として率先して取得せざるを得なかった夏休みの消化に困った私は、バイクをフェリーに乗せて、自分はLCCで北海道に向かうことにした。自分のバイクで北の大地を走ってみたいという長年の夢をかなえた、と言うと聞こえはよいが、家族に見捨てられてやることが無いんじゃないかという指摘は、結構正しい。男はそんな事に負けてはいられない。

北海道はライダーの聖地と言われている。夏は涼しいし、道も信号や渋滞がなくて走りやすい。山や海、広大な農場などの景色も最高である。体力がある若者や、年季の入った旅慣れたライダーなら、テントなどのキャンプ道具をバイクに積んで格好よく旅をするのだろうが、初心者でテクニックもない私は、無理はしないことにした。スピードは抑えて安全運転、疲れたらすぐ休息、夜はホテルの大浴場につかって、ベッドでグッスリである。万一のためにバイク用エアバッグをジャケットの上から着用することにした。軟弱で恰好悪くても、安全な方がいいのだ。

なにしろ、バイクで何日も旅に出るのは、初めての事である。転んで大ケガしないだろうか、転倒したらバイクをちゃんと起こせるだろうか、雨が降っても事故にあわずに目的地にたどり着けるだろうか、ガソリンスタンドの無い所でガス欠になったらどうしよう、などと考えながら準備をしていると、とても怖くなってきた。出発の数日前、バイト先の透析病院の当直中に、ネットで北海道の番組をみつけた。旅先の情報収集も大事だなと思い、ベッドに寝そべって番組を見始めた。体長2.7m、体重340㎏の超巨大エゾヒグマが、三毛別地区の住人を何人も襲った100年前の恐ろしい事件の話だった。そういえば北海道のニュースで、今年はクマの目撃が多いとか言ってたな・・・。やっぱり行くのをやめようかと思った。