医療法人 慈照会グループ

採用情報

ホーム > 腎臓内科診療日記 > 腎臓内科医の診療日記⑭

腎臓内科医の診療日記⑭

今年のゴールデンウイークは世間では10連休だったが、透析当番やら病院の出勤日やらで何日も潰れて、残ったのは最後の4連休だった。せっかくなので、どこか出かけようと家族を旅行に誘ったら、断られた。どこに行っても混んでいるし、料金は高いという理由もあるだろうが、お父さんと一緒に旅行に行っても別に楽しくない、というのが本音のようだ。これが世の中で私だけの話ならせつないところだが、家庭内で疎外されている中年男性は結構多いようで、ラジオでもゴールデンウィークに自宅にひとり残されるおとうさんや、家でゴロゴロして妻に食事まだかと催促して鬱陶しがられるおとうさんが、ネタとして何通も投稿されていた。私だけではない。人間は、自分が受け入れられない空間に長い事いると、自分の事をダメ人間だと思いこんで、どんどん元気が無くなってしまうので、こういう時は無理せずに逃げた方がよい。そういう訳で、1人で旅行に行くことにした。

旅行というのも、ヒトの心身のケアにとても良いと思う。旅行会社のパッケージツアーも一瞬考えたが、個人でいろいろ面倒な手配をする方が、より頭の体操になる。日常の仕事も新しい事を学ぶ機会は減り、過去の経験と同じようなパターンが繰り返される年齢になっているし、休日は、油断すると自宅の部屋にひきこもって、ゴロゴロ寝ているかネット麻雀をやり続ける廃人になってしまうので、意識的に自分を新しい環境において負荷をかける事は大切である。人間は同じ事をやり続けると、体がそのパターンでしか反応できなくなり、視野が狭くなってしまう。また、そうなっている自分に気づかずに、自分とは異なるものを否定して、理不尽に怒り始める。面倒な事はやりたくなくなり、ますます意固地になる。そうやって疎まれている中高年男性はとても多い。旅行の予定を組むなど、とても頭を使うし、旅先で見知らぬ土地を歩き回ったり、異なる文化やヒトに触れると、思い込みで凝り固まった自分を緩めることができる。だから今回は、以前から気になっていた万里の長城に行くことにした。

20年以上前にも海外をオッカナビックリ旅した事はあったが、久しぶりに海外一人旅の準備を始めた。昔と大きく変わったのが、やはりインターネットの普及である。旅先の最新情報を圧倒的に入手しやすくなっており、スマートフォンのsimカードを海外用のsimカードに差し替えることで、自分のスマホを海外でも利用できて、地図アプリとGPS機能を使えば自分の位置をすぐ確認できるし、ナビ機能で目的地まで案内してくれる。翻訳アプリなんか、スマホに話しかけるとそのまま現地の言葉に翻訳してくれる。スマホ万歳である。便利な時代になったもんだ、とさっそく中国国内3日間データ使い放題のsimカードをネットで手配して取り寄せた。海外製で、取り扱い説明書には、少し怪しい日本語で、「日本でsimカードを入れて電源を入れると3日間のカウントが始まってしまうので、使用開始は現地に着いてからにしてください」という内容の事が書かれていた。旅行準備も済ませて、いざ出発。飛行機の直行便は手配できなかったので、セントレアから大連経由で北京まで半日がかりで到着。ATMで中国元をキャッシングしようと操作を始めたが、どうも操作方法がよくわからない。そうそう、ネットに北京のATMの操作方法が書いてあったぞ。予約したホテルも、どこにあるんだっけ。スマホでホテルの場所を検索して、GPSで自分の位置を見ながら地下鉄を乗り継いで、たどり着けばいいんだな。地下鉄の切符を買うには、やはり中国元がいるな。私は空港のベンチに腰かけて、自分のスマホに購入したsimカードを入れて電源を入れた。画面に、「このsimカードは使用できません」と表示された。