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腎臓内科医の診療日記⑩

透析患者さんは、週に3日透析施設に通っているので、大抵の合併症は透析クリニックでまとめて診てもらっている事が多い。しかし、少し特殊な病気などで透析導入後も私の外来に定期通院されている方もいる。

Mさんもその一人なのだが、趣味がバイクに乗ることや車をいじることで、診察の時にそのあたりの近況報告もあったりして面白い。私が数年前にバイクの免許をとった時に、そのことを早速Hさんに報告したら、ライダーの仲間入りを大変喜んでくれた。バイク人口は年々減ってきており、ライダーの平均年齢は51歳だそうである。ライダーには不思議な連帯感があって、ツーリング中に対向車線にバイクをみつけると、お互い手を振って挨拶する。なんとなく孤独を感じながら生きている中年男性にとって、かけがえのない瞬間である。明日からも頑張って生きていこうと思える。だからライダーは元気である。

そのMさんが、診察の時に元気がなかった。血圧を測ってみると80くらいしかない。ライダーも低血圧には勝てない。いろいろ調べてみると、どうやらドライウェイトの設定が合っていないようである。透析患者さんは、ドライウェイトという適正体重をあらかじめ設定しておいて、透析のたびにその体重を目標に、余分な水を抜く。しかし、その適正体重も定期的な見直しが必要である。体調がよくて筋肉や脂肪が増えているときは、それに合わせて適正体重を増やしていくし、逆に体が痩せてきているときは減らしていく。ドライウェイトの設定が合っていないと、脱水になって血圧が下がってしまったり、水分が多すぎて心不全になったりする。そのような兆候がみられたら、ドライウェイトの再設定の時期である。Mさんの場合は、ドライウェイトを少し上げた方がよいのである。

次の診察の時、Mさんは相変わらず元気がなかった。持参されたクリニックの先生からの手紙には、「Mさんがドライウェイトを増やしたがらないので、そちらでも相談お願いします」と書かれていた。よくよく聞いてみると、ドライウェイトを増やすと食べられる食事の量や水分が減ってしまう、とMさんは考えているようだった。以前、別の患者さんでも同じ事を言われる方がいた。ドライウェイトを増やすと太ってしまう、と思っている方もいた。患者さんにとって、この辺の話は少し難しいようである。食事制限や水分制限はそれまでと変わらないし、からだが太ったり痩せたりするのに合わせてドライウェイトを調整するのであるが、短い診察時間では、なかなか理屈を説明しきれない。ひとまずドライウェイトを上げて元気になりましょう、とその場はごまかしたが、本当は誰でも理解できるように説明するのが、透析スタッフの仕事である。