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腎臓内科医の診療日記⑤

先日、自分の母親をデイサービスの見学に連れて行った。最近、認知機能が急激に衰えてきているようだったからである。以前までは車でちょっと離れたスポーツクラブに通っていたのだが、高齢となって免許を返納し、外出する機会が極端に減ってしまっていた。そこでデイサービスに週に数回出かけて、人と会ったり、運動したり、新しいものに触れたりすることが、元気に長生きするために必要だろうと考えたのであるが、これが見事に失敗した。

見学中からあからさまに不機嫌となっていた母親は帰ってくるなり、「あんな所に通うのは自分よりももっと年寄りで認知症のすすんだ人だ、姥捨て山に捨てる気か、自分は絶対に行かない」などと、ものすごい剣幕で怒りはじめたのである。自分のカミさんや施設の人にも協力してもらって説得を試みたが、まったく聞き入れる気配がない。本人が行かない、というものを無理やり連れていく訳にもいかず、結局計画は失敗に終わった。その数日後に観たクリント・イーストウッドの映画でも、年老いた頑固な父親を施設に入れようと、息子夫婦があの手この手で説得を試みるも失敗し、追い返されて怒って帰るという場面があった。どの国でも一緒だなと思った。

まだ透析の始まっていない腎不全患者さんは、大抵、透析なんかに通いたくない、と思っている。透析に通うくらいなら死んだ方がましだ、と言われることもよくある。しかし、透析の場合は、必要な時に嫌がってばかりいると本当に死んでしまうのである。それで最初は仕方なく通い始めるのであるが、長年透析に通っておられる方々の中には、元気で認知機能が保たれている人が結構多い。先日まで入院していた90歳半ばの女性の患者さんは、透析中に幕末明治の歴史雑誌を楽しそうに読んでいた。元々そういう人が長生きしているのもあるだろうが、透析生活自体が良い影響を与えている部分もあると思う。高齢の患者さんにとって、世代の違うスタッフとのコミュニケーションも毎回あるし、顔なじみの患者さん同士で仲良くなったり、いつの間にかカップルが成立している事もある。日々の食生活の制限や水分管理について、自分でも考えなくてはならない。気分が乗らなくても、週に3日は透析施設に通わなくてはならないので、自宅に籠っている暇がない。このようなことが、病気の治療という枠を超えて、患者さんを元気にしているように思う。